オン ザ ソファ

一人きりで暮らしているから、どうでもいいことを聞いてほしい

斬新な漸進

胸というよりも息の詰まるような夜が明けた。
元恋人は早起きして始発で去る、というわけでもなく、私と同じタイミングで起きて、朝ご飯代わりのオレンジジュースをしっかり飲み、まるで本当に遊びに来ただけみたいな、何事もなかったかのような顔で帰って行った。「また来るよ」の一言は当然ながら聞けなかった。
そして私はこの交際関係について知らせていた各方面に破局を報告し、出勤して働いて退勤して帰宅して、昨日2人で洗った食器がまだ洗いカゴに並んでいるのを見て泣いた。
しかし感傷に浸る時間も大事だが、やるべきことは目の前に山積みだ。月末に元恋人に会いに行くために予約したバスチケットをキャンセルするとか、その時に遊ぶ約束をしていた別の友人たちへ行けなくなったと謝罪の連絡をするとか、そういうことも大切だが、私が、もといフラれた直後の人間がするべき最も重要な事は、速やかに、かつ大胆に、そして欲を言えば徹底的に気分を換えることだ。
私は修士1回生の春に好きだった男性に告白してものの見事フラれ、そのことをなんと半年以上も引きずった。あれは本当に健康に悪かった。何をしていても悲しみや後悔が頭の隅をちらつき、その度に心の体力が削られていく。槇原敬之にさよならと言った女の気持ちはAメロの最後らへんから何となく分かる気がするが、現実に自分をフッた男の気持ちなど訊きでもしないとわかるわけもない。そして絶対に訊きたくない。つまり答えは見つからないし見つけたくないのに、考えることが止められない死のループにどっぷりハマってしまったのだ。引きずり期間が3ヶ月を超えたあたりから、もはや辛いというよりもウンザリだった。

そして次の年、つまり修士2回生の春、性懲りも無く別の男性に告白してフラれた私は、もう引きずるのはまっぴらだという気持ちからフラれたその日にtinder(出会い系アプリ)に登録し、マッチした男性と翌日会う約束を取り付けた。しかしこの時は土壇場になって怖くなり、会う前に約束の場所から逃げ出した。私はこの敗走を心から恥じ、その次の日にも別の男性と会う約束を取り付けたが、今度は向こうが怖じ気づいたのか約束の場所には誰も現れなかった。傍から見れば不健全で捨て鉢な行為に見えるだろうし、実際捨て鉢だったが、知らない人といきなり1対1で会う恐怖と戦う間、確かに私は失恋の苦しみを忘れていた。
その後、tinderの使い方が上手くなって2人くらいの男性とデートしてみたり(写真加工アプリのすごさと、写真では身長が判らないということがわかった)、相席居酒屋に行ってみたり(謎のおじさん3人組の話を1時間半くらい聞いた)、友人に男性を紹介してもらったり(行った店の店員と客がガンガン話に割り入ってきてびっくりした)がどれも上手くいかず、やはり私に恋愛など土台無理なのかと諦めかけた頃、近所に住んでいた元恋人と仲良くなり始めた。

色々思い出してまた悲しくなってきたが、とにかく私が今やるべきことは、この我武者羅彼氏作りデスマッチのパート2である。もちろん前回のやり方がかなり無鉄砲かつ危険であることは自覚しているので、今回はNZランドにワーキングホリデーに行っている友人(コミュニケーション能力:鬼)のアドバイスを受け、何かの界隈に飛び込んでみようと思う。
具体的に言うと、陶芸でもボルダリングでも何でも良いので、既存のコミュニティに参入してみようということである。
街コンやtinderも良いが、やはり1対1で初めて会った男女が仲良くなるというのはかなり無理があることだ。それよりかは、同じグループの中で同じ目標に向かって活動するうちに仲良くなっていく方が自然だし、結局恋人ができなかったとしても、新しい友達はきっと見つかるだろう。

しかし今回はなんとなく、そんなに一生懸命にならなくても良いかな、という気もするのである。
わりと面白めのフラれ方をしたおかげで傷が浅いというのもあるが(最後に顔を見て話せたのも良かったし、この現在の私の心の安寧を見越しての行動であったなら、奴は本当に大した男である。知らんけど)、フラれた深夜22時から翌朝10時までの12時間のうちに、私は10人もの大切な友人+姉に失恋を報告しており、事件発生から24時間以内にはかなり多くの励ましの言葉をかけてもらうことに成功していた。それに今週末および来週末には修士の同期たちが、来月中旬には幼なじみたちがわざわざ仙台まで私を励ましに来てくれるのである(彼らの本来の目的はバーベキューや観光であったが、この事件を受けて強制的に変更させてもらった)。正直に言って楽しみで仕方がない。辛いこともあるけど、人生って楽しいなぁ、私は幸せ者だなぁ、という心持ちである。

私というメガロドンばりの巨大魚を逃がしてしまった元恋人には同情を禁じ得ないが、根はとても純真かつ善良な人であるので、彼にもぜひいつか幸せになってほしいと願っている。













いや、やっぱ殺す。

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